せんせいへ

「やはり今の僕に「傘がない」がとても響くのは、昔と今で圧倒的に自分の感性が変化したという事実を突きつけられるからなんだよ」
「ほう」
「社会というマクロな存在から君というミクロの存在へのシフト。視野狭窄性。それは美しいことでもあるのだけど、社会に生きるべき存在としては圧倒的欠損がある」
「また難しいことを言ってごまかそうとしてるのか」
「僕の現在の語彙と表現じゃこれぐらいが限界なんだよバカ――現在のサブカル文化の片翼を日常系と呼ばれるジャンルが旺盛しているのも、これに予言されているとも言えるのではないか」
「そんな適当なこと言ってるとサブカルの筋の人から怒られるぞ。俺はもう知らん」
サブカルうんぬんは一度言ってみたかっただけで、根拠も何もなくて用語を使ってみただけだから、聴き飛ばしてくれよ頼むよ」
「で、お前は結局何がいいたいんだ?」
「社会問題とは隔絶したように自分の日常が続いていく中で、自分と「傘がない」との圧倒的隔絶は、「君の不在」に尽きるということなんだよ」
「何だ、結局お前は彼女が居ないことを嘆きたいのか」
「いや肉体的・存在的に君と象徴するような君が今の僕には存在していなくて、ミクロ的な視点や力のやり場の喪失を持て余している現状をどうにか打破したいわけなんだ」
「意味がわからん。もっと噛み砕いていってくれ。相変わらずお前は人に伝えることがヘタだな。だから研究もうまくいかないし、仲良くなりたいひとからも距離をおかれ、よくわからないやつの烙印を押されてしまうんだろ」
「つまりは、僕は日常の是正も社会の是正も何もできていないままで、それを無視して何かをできなくて、生きにくいねという」
「・・・」
「・・・」
「やりたいことは、あるんだろ?」
「・・・はい」
「去年や今年のはじめの誓いを忘れたのか?」
「・・・いいえ」
「考える暇があったら手を動かせって何回言ったらわかるんだよ」
「・・・すいません」
「世の中のカップルとかに対する恨みを創作活動で発散させるんだろ」
「・・・というか女性の存在さえなければ、世界は、僕は平和になるのかなったって思い込もうと思ったけど無理でした」
「孤独か?」
「・・・」
「かまってほしいのか?」
「自らかまってって言うのが死ぬほど嫌いなのにも関わらずね」
「死にたいのか?」
「リスペクトCDをつくるまでは死にたくないけど、どうやら体調的にそうもいってられないので、遺書みたいなのは書いたよ」
「お前は何がやりたいんだ?」
「・・・」
「ゲームはもういいのか?」
「・・・」
「就職活動に後悔があるのか?」
「・・・」
「みんなが羨ましくてたまらないんだろ?」
「・・・」
「お前はやっぱり変わって無いよ。他人の評価なんでどうでもいい。自分で自分のものさしを作って、それに従う強さなぞ持ちあわせてはいない。自分で自分の殻にいて、ひたすら自意識過剰を尖らせて、寝て起きたらお前の都合の良い世界にならないかをずっと待ってるだけの人間だ。お前が徹底的に見下している奴らと何も変わりはない。貴族に飼いならされた家畜のような人間だよ。お前に丘の向こうが見いだせるわけもなく、戦災復興など夢のまた夢だろう。諦めて楽になったほうが、これからの人生ずっと有意義じゃないのか?お前は一般人として日本社会に組み込まれて、流れに同化して乾いていくんだろ。」
「僕は。。。俺は。。。」