道を切り開く為に

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坂元: その前に、テレビゲームは特に最近、悪い面ばかり注目されるようになっていますが、他のメディアと同様に、大きな喜びや楽しみ、幸福感や感動を得ることができるものなんだということも認識してほしいですね。テレビゲームによって、いい影響を受けている人もたくさんいるわけですから。

しかし、なぜこんなに人はテレビゲームに惹きつけられてしまうのでしょうか。研究者の間でもいろいろなことがいわれていますが、私なりにまとめますと、テレビゲームには、従来のゲーム(テーブルゲームなど)の魅力をコンピュータによって増幅させた、5つのポイントがあるんです。


(1)常に適切な目標(中くらいの難易度)が設定されるため、やる気が出る。
(2)プレイヤーに対し、クリアすることで次の展開が楽しめるなど、強い報奨が与えられる。
(3)操作が自動化されていて、ゲームのコアの部分だけが楽しめる。
(4)複雑な内容を提供していて、なかなか飽きない。
(5)現実的な場面を提供していて、より没入しやすくなっている。


メディアとしてのテレビゲームとは別に、テレビゲームのこれら5つのポイントを利用したいろいろな有効活用が考えられ、また、実行されています。

――テレビゲーム仕立てのコンピュータ教育ソフトは、ブレイクする可能性があるとのことですが、まだ普及していないのはなぜだとお考えですか。

坂元: 学校やメーカーで、なぜコンピュータ教育ソフトに力を入れないかというと、メーカーとしては、まず売れるかどうかわからないわけです。さらに、優れた教育ソフトをつくるのも難しいですが、それに加えて面白いテレビゲームというのを両立するのは、非常にハードルが高いんですよ。ハードルが高いということは、コストがかかるということですが、その割に、マーケットがはっきりしないんです。

なぜマーケットがはっきりしないかというと、家庭を対象にしているからで、これが学校に導入されるとなれば、マーケットは大きいので力をいれようということになります。 学校側がなぜそういう動きをしないかというと、学校という場にテレビゲームというものが合わないのではないか、という見方があるからなんです。

ただ、こういう見方は変わっていくもので、例えば私が子供のころは、漫画は学校にもっていっただけで怒られたんです。それが、今では多くの小学校の図書館に漫画が入っていますし、小学校に卸すためにつくられている漫画があるくらいです。漫画は面白くて、勉強の役に立つ、という見方に変わったわけですね。ですから、テレビゲームの有効性に目が向けられて、教育に利用するようになる日もくると思うんです。

――悪影響に比べると注目はされていないものの、テレビゲームの有効性も、認識されてきているということですね。

坂元: テレビゲームを含めて、メディアに接触することに対し、善か悪か、1か0かの議論が多くされていますが、心理学の分野では、子供の発育にはコンテンツの問題が深く関わっていることが指摘されています。
テレビならどんな番組か、テレビゲームならどんなソフトかによって、毒にも薬にもなるということです。 

テレビゲーム業界も保護者の方も、規制をするということ自体の問題をしっかりと認識し、それを共有していくことが重要だと思います。


まずは議論を活性化すべきだと思います。今の状況は、完全に「規制」と「テレビゲーム業界の経済的利益」が戦っている図式です。それもあるとは思いますが、本当は、「規制」と「表現の自由」との戦いや、「規制」と「豊かなメディア社会」の戦いでもあるべきなんです。


法規制で対処されると、思考停止が起こる懸念がありますし、それが突き詰められると、使えないメディアと、メディアに対して無知な大衆だけが残ることになりかねません。もっといろいろな選択肢を議論した上で、最終手段として法規制するというのであれば、わかるんですが。

だから、テレビゲーム業界はもっと攻めの対策を採ってはどうなんでしょうか。テレビゲームがリアルになることによって、より大きな感動を得られることや、教育分野や医療・福祉分野で有効活用できることなどを、強く訴えていくことが必要だと思います。


また、保護者の方に、テレビゲームとの付き合い方がわかるような情報をテレビゲーム業界側が提供することも必要でしょう。 テレビゲームは悪ではないのだと、社会の見方を変えていかないと、規制するだけの状況になってしまうのではないでしょうか。


規制はテレビゲームのすばらしい技術と、それがつくりあげた文化をも縛るものですし、ゲームクリエイターが育たない、ということにもなりかねません。
これは、テレビゲーム業界にとっても打撃ですが、社会にとっても損失ではないかと思います。