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セガ名越氏が語る『龍が如く』とゲーム倫理の問題 - ファミ通.com

ゲームが産業として広く認知されたのはファミコンブームからだと考えると、ゲーム産業の歴史は約20年。いまでは映画と肩を並べる産業となったが、かたや映画が1世紀以上の歴史を持っているのに対し、ゲームの歴史は四半世紀に満たない。その点から、「ゲームはまだ過渡期というよりも創成期」だと名越氏は言う。かつて、映画産業にもさまざまな問題が提起され、議論があったはず。「でも、ゲームは技術の進歩が速く、変化が猛スピードで起きてしまった。産業ばかりが成長してしまって、議論がされてきていないんじゃないかと思うんです。言ってみれば、頭でっかちの逆で“体でっかち”になってしまっているんじゃないか、と」(名越)。

「人殺しでも何でもできてしまう『グランド・セフト・オート』というゲームがありますが、これもひとつの行き着いた先。このゲームは、誰かがいつか作らないといけないものだったと思っています。僕自身は、ゲームが人に与える影響というものをきちんと考えたいので、こういうゲームを作りたいとはけっして思わない。でも、このゲームにあるような倫理の問題については、きちんと議論をしていかなければいけないと思っています。ゲームはみずから入力をして反応が返ってくる、いちばん刺激的なメディアだと思います。では、いちばん危険なメディアなのかと問われると……作りようによってはそうかもしれません。だけど、危険だから表現のハードルを下げるべきかと言われると、ちょっと納得できないんです」(名越)

名越氏自身、『龍が如く』シリーズを作る際には、現代劇だからNGとされた表現があったという。しかし、過去や未来を舞台にしていれば同じ表現がOKに。あるいは、キャラクターものでもOKなのだそうだ。「たとえば、ピカチュウが血をダラダラ流してもOKになるんですよ。けど、それっておかしいですよね? 子供は絶対に泣きますよね?」と、熱く客席に問いかけた名越氏。「僕はゲームはインタラクティブだからこその感動があると思っていますし、倫理の問題についてはきちんと議論をしたい。機会があれば業界内でそういう発言をしていきたいと思いますので、皆さんも何か思うことがあればぜひ投書でも何でも声を出していただければと思います」と呼びかけた。

また、『龍が如く』の特徴のひとつであるタレントのタイアップについても、名越氏なりの明確な考えが明かされた。『龍が如く』以前は、タレントを起用することはあっても「ゲームにタレントという引きは必要ないとされていた」という。しかし、ゲームが産業として成熟するにつれてメジャーな方向へ向かうのは必然だと名越氏は考えた。「映画でもドラマでも、誰が出演しているか、タレントで選ぶでしょう。ゲームだってそうなるべきだと思ったんです」ときっぱり。

 名越氏は最後にもう一度、倫理の問題に触れて以下のようにトークを締めくくった。

「先日、『フジテレビ開局50周年記念記録よりも記憶に残るフジテレビの笑う50年』という番組がやっていたんですね。その中で昔のお笑い番組のリプレイがたくさん流れたんですが、それを観たナインティナインの岡村さんがこんなことを話していたんです。かつてのお笑いは、危険なこともエロいことも含めてめちゃくちゃやっていた。でもいまは、イジメのきっかけになると言われるから同じことはできないんだ、と。芸人が芸人をいじる芸や罰ゲームが、イジメの手段として使われる、イジメを助長している、と言われてしまうんだそうです。そこで岡村さんは、僕には涙ぐんでいるように見えたんですが、そういうつもりでお笑いを作っているわけではない、と言ったんです。むしろいじめられている子が土曜の夜にお笑いを見て、芸人がいじられている様子を笑い飛ばしてストレス発散してくれればと思って作っている、と。その言葉に僕はものすごく感動したんですね。ゲームも同じように悪く言われがちです。何か事件が起こると、その容疑者がプレイしていたゲームが報道され、ゲームの影響だと言われる。でもそう言われてしまうのは、僕たち業界人が責任を果たしていないからだと思うんですよね。いつまでゲームを作り続けているかはわかりませんが、僕だけでも業界内で果たせる役目があるんじゃないか、それを考えていきたいと思います」(名越)